A memorandum...

 

Many memorandum were left behind publicly or privately through the during-the-war postwar period. If good, we will want to read one piece of such inside... For whether it is true, it is, without thinking...

(戦中戦後を通して多くの手記が、公的にあるいは私的に残された。そんな中の一編を良ければ読んで欲しい・・・それが、真実かどうかは考えずに・・・)


 実験中隊のあたしが、実戦に出ることになったのは、本当にひょんなことからだった。出撃直前の部隊のパイロットが1人、急な病気で出られなかったこと、その部隊の指揮官が定数割れを嫌がったこと、そして、あたしがこの機体を実戦下で運用したいと具申していたこと等その他もろもろのことが1つに偶然重なり合った結果だった。
 もっとも、その任務は、哨戒であり、絶対に戦闘になるという保証がなかったことも理由の1つだった。
 
 戦闘出撃があるかどうか分からないはずだったが、実際には、出撃命令が、ソロモンを出港して10時間と経たないうちに出ることになった。
 敵、連邦軍が、それほどソロモンの近くにまでちょっかいを出してくるようになったということだった。夏までは、宇宙(そら)では夏を実感できることなど何もなかったけれど、完全なジオンの制宙権内にあった空域なのに・・・思ってもどうしようもないことが、その瞬間に胸を過った。
 夏を過ぎて以降、耳にする戦況は悪くなる一方だったけれど、そのことを初めて実際に実感した瞬間でもあった。
 待機ルームで既に出撃の準備を整えていたあたしは、小わきに抱えていたヘルメットを思い切りよく被った。気密シールドが自動的にスタックし、短時間ならば真空に曝されても大丈夫なようになる。臨時に仲間になった2人パイロットの後を追ってドアに向かう。素早く被ったはずなのに、彼等は、さらに手慣れているらしく、あたしは最初からワンテンポ遅れてしまった。
 待機ルームから出て、それぞれの愛機に向かってジャンプする。ジャンプとは言っても、軽く床を蹴ったに過ぎない。
 重力のない格納庫では、軽く床を蹴っただけで9メートルはあろうかというコクピットの高さまで十分に届く。逆に勢いがよすぎると、怪我でもしかねない。
(新兵の頃は、よく行き過ぎそうになったっけ・・・)
 空間を早すぎず遅すぎないスピードで移動しながらふと昔を思い出す。昔といっても人が思うほどではない。けれど、この動作をするようになって何年も経ってしまったように思うのも事実だった。きっと、戦争に自分の身体を曝してるせいだろうと思う。最初の時は、特に勢いをつけすぎた。ザクのコクピットに勢い余ってぶつかる!ぶつかって怪我してしまう!思わず首を竦めてしまうほど勢いを付けたのだ。けれど、実際にはそうはならなかった。自分でどうにかしたわけではなかった。たまたま、そこに居合わせた士官が、あたしを受け止めてくれたのだ。もう少しで、ソロモンの駐機場で大恥を晒すところだったあたしを思いもかけないほど逞しい腕で止めてくれたのは、自分と同じ髪の色をした士官だった。
 がっしりとした体格に太い首、鋭い眼光の士官。その眼光が一瞬だけ和らいだ。勢い余ったスピードを片腕で押し止めてくれたのは、驚きだった。それほど、その士官の腕が逞しく、力強かったということなのだろう。まさか、その士官が、この出撃に際しての指揮官になるとは、その時には思いもしなかった。出撃前のブリーフィングの時に現れた大尉が、その人だと分かったときには思わず声に出しそうになったほどだ。その士官が、覚えているかどうかは分からなかったが、あたしの中であの時の記憶がフラッシュバックしたのだけは確かだった。世間は、宇宙世紀になってもそれほど広くなってはいないことの証拠だった。
 しかし、今日、手を差し伸べてくれたのは、その大尉とは似ても似つかないいつも通りの整備下士官のキャリバー伍長だった。あたしのせいで実験中隊から一緒に引っ張って来られた整備兵だ。なにしろ、この機体は、他の兵では整備できないのだから仕方がない。手を差し伸べてもらわなくともスピードの調整は、十分にできている。そう、もうベテランの域に差し掛かりつつあるのだ。少なくとも、格納庫内での所作については。
「少尉!ほんとにこれで良いんですか?新型も、うちには優先的に回されてきてるんですよ・・・」
 汚れても予備のものに替える暇などないのだろう・・・薄汚れた整備兵用のノーマルスーツをまとった下士官が、バイザーを閉じながら言った。直前まで調整をしていてくれてたのだろう、手には、何かしらの工具を握っている。
「良いの、あたしは、これの方が身に付いてるから」
 士官用にカラーリングを変更したパイロットスーツを、身体に馴染ませながら、はっきりとした口調、それでいて女性らしい柔らかな声で答える。
「カラーリングは、変えましたが・・・」
 ハンガーに固定されたモビルスーツを見回して整備兵は、心配そうに言った。一昨日までの黄色を基調にした実験中隊の機体色から塗り変わった機体が、そこにはあった。
「心配無用よ!キャリバー伍長!」
 そういって、少し身体を引いて新しく塗り直されたモビルスーツを見た。ミディアムブルーとダークグリーンで塗り分けられた機体は、おふざけのような実験中隊カラーとは違って機体そのものの性能まで上がったように見えた。「思ったよりマッチしてるわね?でも、ジオンの紋章が大袈裟すぎない?」
 鮮やかな黄橙色でマーキングされたジオン紋章が暗いモビルスーツハンガーで、いやがうえにも目立つ。シールド上に大きな紋章が1つ、胸部、右肩、それに人間で言う右の尻タブにも描かれている。
「少尉が、味方に撃墜されたら洒落になりませんからね」
 あたしが、気楽そうに話しているのと較べるとキャリバー伍長の話しぶりは、真剣そのものだ。
「IFFは、付け替えてあるんでしょう?」
「そりゃあ、そうですが・・・」
「大丈夫、それにジオンには、味方を誤射するようなパイロットは、いないわ」
「それもそうとは思いますが・・・とにかく、気をつけて下さい!!」
 右手を軽く挙げて、それに応え、コクピットに収まる。
 良きにしろ悪しきにしろ、伍長は、本気で心配してくれているのだ。それは、嬉しいことに違いなく、あたしの、ともすれば尖りがちになる気持ちを優しくしてくれることの1つだった。
 ジオン製のそれとは違う丁寧な造りのハーネスを締めながら見慣れた計器、モニター、それらを1つ1つチェックし発進確認を行う。キャリバー伍長が、既に始動させてくれているおかげで簡単な計器のチェックだけで済むのが、ありがたい。他のパイロット達は「こんな扱いづらいのによく乗れるな」とからかうが、慣れてしまえば、この機体の操縦系統が、いかに合理的にできているか分かるはずだと、言ってやりたかった。ザクに慣れたパイロットにとっては、戸惑いを感じるこの機体も、航宙機パイロットだった自分には、なんの違和感もなく受け入れられる仕様に思えた。つまり、星の数ほど宇宙戦闘機のパイロットを抱える連邦軍にとっては、なんとも合理的な機体だと言えた。
『連邦軍は、複数のモビルスーツを伴う、繰り返す、連邦軍は、複数のモビルスーツを伴う!』
 艦長が、艦内アナウンスを通し注意を喚起する。
(ああ、やっぱりな・・・)
 声に出さずに思う。近頃の連邦軍は、モビルスーツを繰り出すとは聞かされていたけれど、心のどこかでは、いないほうが良いな、と思っていたのだ。
『少尉、君は、実験中隊では名が通っているらしいが、実戦は、初めてだ、わたしの後方につき、支援しろ』
 今度は、母艦モビルスーツ隊の指揮官、ディアス中尉から隊内無線が入る。
「了解です、中尉。後方から支援します」
(ちっ)
 軽く、聞こえない程度に舌打ちする。面白くない命令だったが、ディアス中尉の言うことは事実だった。実験中隊から、一時的に出向した身分だったし、実戦を経験していないのも事実だったからだ。実験中隊では、何十回となく模擬戦闘を経験してはいたけれど、もちろんこの機体でもだ、確かに、実戦はただの一度も経験していない。
 手柄を立てたいという功名心と死にたくないという恐怖心、その2つが微妙に混ざり合ってあたしの心を乱していたのに、その時のあたしは、たぶん気が付いていなかった。他のいろんな感情とともに全てを、初めての実戦に出るという不安感として纏めてしまっていたのだ。
『各機、発進せよ!』
 発進の下令で、標準カラーのリック・ドム、2機が、中尉の機を先頭に出撃する。そして・・・
 次の瞬間、あたしも宇宙(そら)の人となった。いつもの宇宙(そら)、それでいて全く異なる宇宙(そら)、そう、今日、あたしは、命の遣り取りをここでするのだ。
 ムサイを発艦し、艦隊右舷空域で編隊を組むために機体を機動させながら、モニターを注視する。
 いた!ほんの少し、心が踊る。標準カラーとは違うカラーリングのリック・ドムが、編隊を纏めつつあった。
『こちら、・・・大尉!ディアス小隊は・・より、わた・・小隊を支援せよ!』
 こんなに近距離だというのに、急速に散布されつつあるミノフスキー粒子のせいで、隊内無線にもかかわらず、大尉の声は残念なことに酷く聞き取りにくくなっている。
 同時に、今迄見たこともないほどの光の饗宴が、眼前で繰り広げられていた。
 友軍の2隻のムサイと旗艦のチベから放たれるビームと、彼方から放たれてくる連邦軍のビームの織り成す死の饗宴だった。シミュレーターでの命中判定が出るだけのビームではなく、本物の死を運んでくる紛れもない戦場での死神の交錯・・・。その死の光が、宇宙(そら)を眩く覆い尽くそうとしているように感じられて、圧倒されそうになる。
『各機!・・・戦速!!』
 そんな自分を現実に呼び戻す大尉の、男らしい粗野な感じの声!戦場の恐怖を一瞬だけ遠ざけてくれる。その声の主が、あの好ましい士官だと分かっているから余計だった。
『ディアス小隊、最大戦速!行くぞ!』
 大尉のリック・ドムよりも近くに位置する分、ディアス中尉の声は、鮮明に聞こえた。もっとも、コンピューターによって補正されてのことだ。
「了解!」
 少しでもよく聞き取れるようにと、大きめの声で返す。けれど、半分は、ディアス中尉にではなく、大尉に向かってだった。
 
 ムサイ各艦から3機づつ、チベから6機の12機、自分の機体を除けば、その全てがリック・ドムで編成されている。そのことが、この部隊・・・第34哨戒中隊がいかに精鋭なのかを物語っている。
 リック・ドム・・・ザクの弱体化から急遽、陸戦用の機体を宇宙戦用に転用した機体。その転用が、予想以上にうまくいったジオンにとっては、稀なケースだった。ザクよりも装甲も厚く、最大速度も上がっているといわれている。何よりもその特徴は、十字のモノアイ可動軸と重厚な機体のボリュームだった。圧倒的威圧感で連邦を蹂躙したザクが、まるでティーンの子供のように見えてしまうほどだった。
 連邦艦隊から溢れ出た光の点は、都合8機、けれど作戦前に大尉から訓示があったように決して侮ってはいけないのが現実だった。連邦が装備するビーム兵器故だった。リック・ドムが装備する新型マシンガンやバズーカなどが及びも付かない遠距離から射程に捉えてくるから怖い。
 その怖さは、自分がこの隊の中でも一番良く知っていた。動目標ですら、5キロの単位で命中させることが可能な兵器なのだ。それは、自分自身で検証したのだから間違いない。
 このジムという連邦製のモビルスーツが、実験中隊に回されてきて、自分が搭乗することになったときは、ジオン製の新型機に乗れない不運を嘆いたものだったけど、初めてビーム火器を発射したときの恐怖と感嘆は、忘れもしない。それは、同時に、このジムという機体が量産されて前線に出てくるようになったとき、ジオンの優位が一気に消滅することを暗示していた。
 そういった思いとは無関係にあたしは、ジムを無意識のうちに回避機動に入れた。ふっと、笑みがこぼれる。今日、あたしは、連邦製のモビルスーツで、連邦軍を叩くのだと思ったとき、連邦軍がその事実を知ったら、どれほど驚くのだろうと思い、その驚く様を一瞬だけれど、想像したのだった。
 その僅かな心の余裕でさえ、次の瞬間には霧消してしまうなどと、その僅かな瞬間でさえあたしは、思いもしていなかった。
 連邦軍が、射撃を開始したと同時に、あたしは、必中の3連射をした。
 ほとんど同時といっても良かった。
 けれど、その結果は、歴然としていた。
 あたしの射撃は、むなしく虚空に吸い込まれていったに過ぎなかったのに、連邦の射撃は、味方のリック・ドムを早くも1機血祭りに上げたのだ。
 その1機が、自分の小隊のフレイクス機だったことが、あたしをパニックに陥れた・・・。シミュレーターで幾度となく経験してきたはずのモビルスーツの核融合炉の誘爆が、圧倒的な恐怖で自分に迫ってきたからだった。
 
 戦闘が、どう推移したのか?それは、あたしには、全く分からなかった。覚えているのは、フレイクス機が信じられないほど大きな爆発を起こしたこと・・・、ビーム火器のエネルギーを消費し尽くしたアラート・・・、中尉の怒声・・・、間近に迫った敵・・・、敵を阻止しようとした中尉の機動・・・、そして、また爆発・・・、後退信号。
 それらの全てが一瞬で起きたような気もしたし、酷く時間をかけて起きたような気もした。
 確かなことは、自分が自分でなくなったということだった。シミュレーターのときにいた冷静で沈着な自分は、この宇宙(そら)のどこにもいなかったのだ。
 
 味方は、乱戦の中で3機を失い、2機を大破させられた。
 そして、あたしの小隊の中で生き残ったのは、あたしだけだった。
 
 あたしは、大尉からチベへ着艦するように命じられた。
 チベに着艦したあたしは、コクピットの中で放心した。コクピットが、強制解放されるまでどのくらいいたろう?たぶん3分といなかったはずだけれど、あたしは、生きているんだということをその短い時間の中で酷く実感した。汗で湿ったアンダーシャツ、べっとりと額に張り付いた髪、軽い宇宙酔いから来る嘔吐感、空腹感、喉の渇き、そのどれもが生きていなければ感じられないことだった。
 そして、同時に小隊で自分しか生き残らなかったという恐怖感が込み上げてきた。ほんの1時間前には、同じムサイの待機室にいて、あたしの目の前でバカな話をしていた2人が、どちらも戦死してしまった事実に戦慄した。それは、あたしの身に起きたことかもしれないという夢想が、あたしを底知れない恐怖へと落とし込もうとしていた。
 思わず涙が溢れそうになり、それをかろうじて押し止めたのが、強制解放だった。もし、後3秒、強制解放が遅れていたら、あたしは、きっと涙を流し半狂乱になっていたに違いなかった。
「少尉、大尉がお呼びです」
「わかったわ・・・」
 見知らぬ下士官が、コクピットの中を覗き込んだ。バイザーをオープンにしたヘルメットの中で、胡散臭そうにあたしを見つめていた。
 小隊で1人生き残ったパイロットを興味津々に見ているのか?敵の捕獲機に乗っている酔狂なパイロットとして見ているのか?短い時間では、それは分からなかったし、興味もなかった。ただ、その胡散臭そうにあたしを見る視線から一刻も早く逃れたかった。そう、あたしは、あたしの中で生まれて急速に育って行く恐怖心を見透かされたく無かったのだ。
 もちろん、その整備兵にそんなつもりは毛頭無かったに違いなかったけれど。
「待機室は?」
 あたしは、バイザーを閉じたまま酷く冷たい声で短く聞いた。開けてしまうと、何かの拍子に涙がこぼれてしまいそうだったし、余分なことを話せばやはり同じようになるだろうからだ。悲しかったのではない、いや、悲しかったのももちろんだけれど、いろんな感情がごちゃまぜになってそれが一気に襲い掛かってきて自分を失いそうで怖かったのだ。
 それは、初めての実戦が、自分の思い描いていたものとあまりにも隔絶していたせいだった。
「右手です、あちらのリック・ドムの足元に入り口が。お連れしましょうか?」
「いいわ、分かるから・・・」
 それだけいうと、あたしは、身体を流した。
 その瞬間、押し止めていた涙が一気に溢れ出した。
 
 はっきり言って、その瞬間、待機室のドアをくぐることは恐怖だった。
 そのほとんどは、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感から産まれていた。時が、永遠に止まってしまえばどれほど良いだろう、少女のような思いが過ったが、現実にはそんなことが起きるはずもなかった。
 待機室のドアは、無情にもあたしの気配を感じるとなんの躊躇いもなく開いた。やや昭明の落とされた待機室の中には、大尉しかいなかったことが救いだった。
「ミギリ少尉、ただいま帰艦しました」
 ヘルメットを脱ぎ、小わきに抱え敬礼した。
「・・・泣いているのか?」
 大尉は、ほとんど表情を変えなかったけれど、僅かにあたしの涙に驚いたようだった。
「泣いてなどいません!!」
 そう答えたけれど、涙は、後から後から止めどもなく溢れてきた。
「作戦任務、ご苦労だった」
 大尉の口から発せられた言葉は、あたしが想像していたものとは全く違う種類の言葉だった。
「しかし・・・自分だけが生き残り・・・」
 言葉は、続かなかった。それ以上続けようとすれば嗚咽になってしまいそうだったから。顔は、自然と俯いてしまった。言葉にすると尚更自分だけが生き残ったことが罪悪に思えたのだ。
「少尉は、何に拠って戦っているのだ?」
 それは、唐突な質問だった。と同時に、あたしが言おうとしたことの全てを理解し、それが間違いであることを教えてくれようとする問い掛けだった。もちろん、それはずっと後になって理解できたことだったけれど。
「・・・ジオン公国の・・・」
 決まり切った文句を言おうとしたが、それは大尉に遮られた。
「表向きは、それでいい、だが、少尉、それは魂を持たない戦いをする者の答えだ。・・・分かるか?」
 大尉は、困ったような顔に少し笑顔を浮かべていった。
「いえ・・・」
「わたしは、義に拠って戦っている。それが、ジオンのためになっているかどうかは別だ。分かるか?義に拠って戦うには、どうすればよいか?」
 優しい視線が、あたしを見下ろし、そのせいであたしの気持ちは、幾分和らいだ。
「・・・いえ」
 またしても、あたしは大尉の問い掛けに答えられなかった。けれど、それが少しも恥ずかしいことではないことを大尉の表情から読み取ることが出来た。
「全力を尽くして戦い、そして・・・生き残らねばならん。死んでは、義に報いることもできんからな」
 大尉は、一歩前に進み出てあたしの肩に手を置いて続けた。「よく生きて帰ってくれた。今夜は、何も考えずに眠れ。そして、2度とジオンのために、などと少なくともわたしの前では言うな」
 肩に感じる大尉の手の感触は、ずっしりとそれでいて心地の良いものだった。そして、大尉の一言一言が胸に染み入るように流れ込んできた。
「ハイ・・・大尉」
 大尉を見上げて返事をする。あの時と同じ優しい目が、本心からあたしの生還を喜んでくれているのが分かった瞬間だった。今になって思えば、それが兵士としてのあたしの帰艦に対してだったのか?それとも、あたしという個人の帰艦に対してなのかを考え、答えを出すことは難しい。ただ、その時のあたしは、自分の気持ちに素直に感じ取った。
 この人は、少なくとも嘘やその場限りのことを決して言わない、それが分かったのだ。
「よろしい、では自分の機を整備しろ。戦いは、この1戦でお終いではないからな」
「ハイ!大尉!」
 大尉は、その場を後にした。
 そして、その場に残ったのは、心地よい高揚感を胸にしたあたしと、微かな大尉の汗の臭いだった。もちろん、それだけのことであたしが、気持ちの全てを切り替えることが出来たのではなかったけれど、大尉の話を聞かなければ、今のあたしの存在はなかったかもしれない、いや、無かったに違いないと思えるのだ。
 
 この戦闘の後、あたしは、正式に大尉の中隊に編入されて、敗戦まで大尉とともに戦った。ソロモン空域で、そして、ア・バオア・クーで・・・。大尉とともに戦えたことは、あたしにとって誇りであると同時に喜びだった。ただ1つ残念なことがあるとすれば、あの後、大尉は、一度もあたしに「何に拠って戦うのだ?」と、聞いてくれなかったことだ。
 あの時は、何も答えることが出来なかったが、あの時からずっと、その答えは1つになった。そして、どんな場所で聞かれても答えるつもりだった。
「大尉、あなたのためです!」と。
 
 
The woman who drove the captured GM and came out to the battlefield -- an officer's record ... it does not remain anywhere even so, you should not think that this memorandum is a lie -- you should also know that ..., because having been recorded are not only true -- therefore ...
 
(捕獲されたジムを駆って戦場に出た女性士官の記録は・・・どこにも残っていない。だからといって、この手記が嘘だと、あなたは思わないはずだ・・・何故なら、記録されたことだけが真実ではないということをあなたも知っているはずだから・・・)
 

FIN
















おまけ