+ White Day +
『捕らぬ狸の皮算用』
なんて、ことわざがありますが・・・
「〜〜〜ふん〜ん〜♪」
・・・・・・・・・ヘタな鼻歌が、ドロワの静かな通路にこだまする。
「〜〜〜ばたっばたっばたっ〜♪」
足音もなんだか踊っているように聞こえる。
「〜〜〜♪♪♪」
よく見れば、顔までニヤニヤしてるではないか?!
・・・・・・・・・その顔の主、ケリィ・レズナー大尉は、母艦ドロワの中を、
飛ぶように歩いていた。
今日は3月14日。
なんでも「ホワイトデー」というらしい。
例の日系人の部下に聞いた話では、
「バレンタインデー」のお返しを貰う日だというのだ。
もちろん、チョコレートを贈った相手であるアナベル・ガトー大尉は、そんな風習を知らないはず。
だがケリィは、バレンタインデーのその日から、部下たちを総動員して、
『バレンタインにチョコレートをもらったら、お礼をしないといけないんです!』
とか、
『義理チョコには2倍返し、本命なら5倍返しが相場です!!』
とか、
『愛があれば、手作りで返すそうです!!!』
とか、
一生懸命、ガトーの耳に吹き込んできたのだ。
それもこれも、とにかくガトーから自分宛てのプレゼントをもぎ取りたいがため。
何を贈ってくれるかで、ガトーの心根がわかりそうじゃないか!
・・・と予想したわけである。
(ガトーの義理堅い性格からすれば、きっと・・・うっしっし。)
今日の哨戒任務も終って、
何事もなければ、あとは休息時間。
自室のベッドの上で、ほっと一息のケリィ。
そこへ、ドアの外から声がかかる。
「ケリィ・・・居るか?」
(・・・・・・・・・きたきた!!!)
「おぉー。」
大きな声で返答すれば、ドアが開き、ガトー大尉がそこに立っている。
「ケリィ・・・実はだな、」
ガトーは後手に、何かを持っているようだ。
(・・・セオリー通り、クッキーでくるか)
「この間のバレンタインデーとやらに貰った、チョコレートの・・・」
しかも、照れくさそう。
(・・・・・・・・・ガトーの手作り?・・・まさかな。自由に使えるキッチンもないし)
「お返しをせねばらなんと聞いたので・・・」
ガササッと音がする。
(・・・・・・・・・袋づめか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・指輪・・・ってことはないか)
「これが・・・」
(・・・・・・・・・おおおおおおっ???!!!)
「私が作成した『ケリィ・レズナーの戦闘時における問題点』というレポートだ。
中に課題が書いてあるから、明後日までにやっておくように。」
「・・・・・・・・・は?」
「この間の戦闘で気づいたのだが、どうもフォーメーションに変な癖があるぞ?!
動きを読まれるようになっては、いかんからな。
私からのプレゼントだ。・・・ためになるだろう?」
「・・・・・・・・・普通は手作りの・・・だな・・・たとえば・・・」
ガトーはケリィの言葉を引き取る。
「これでも一週間かけて、書いたのだ。・・・手作りで心がこもっているぞ。」
そうまで、言われるとなぁ・・・・・・・・・はぁぁぁ、
「・・・・・・・・・(がっくり)。」
わかったよ・・・畜生・・・ブツブツブツ・・・・・・・・・と、
机に向かうケリィを見ながら、ガトーは自室へと戻った。
・・・・・・・・・ベッドの上に、そっと『キャンディ(ビタミン補給用)』を残して。
『捕らぬ狸の皮算用』
なんて、ことわざ、
・・・ケリィは絶対、知りっこない。
でも、ちょっとだけ幸せかもね。
・・・・・・・・・だから、おわり(笑)。
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