+ Weak point +
人間、誰しも弱点のひとつやふたつ・・・いやみっつやよっつ、
場合によっては、ここのつやとおはあるものだが・・・・・・・・・
「で、おまえは何が苦手なんだ?!」
「・・・あー、えっと・・・く、暗い場所かな。」
・・・コツン。
「痛ッ!」
ケリィ・レズナー大尉が笑って、カリウス伍長の頭を叩く。
戦艦ドロワの一画にある休憩室で、302哨戒中隊の男たちがくつろいでいた。
今日の索敵任務を終えて、過当労働から開放されたばかり。
ここのところ、ソロモン宙域は騒々しかったが、今日は敵の影の影さえつかめなかった。
・・・自然と気も緩むというもの。
で、安っぽいテーブルを囲み車座になって話すうち、話題はなぜか『苦手なもの・弱いもの』に及んでいた。
「男の言葉じゃないなー。」
「じゃあ、レズナー大尉は何が苦手なのですか?」
頭をさすりさすりしながら、カリウスが訊く。
「・・・『おんな』だ(にやり)。」
・・・カリウスの目つきはすでに疑わしそうになっているが、ケリィはお構いなしに後を続ける。
「休暇でサイド3に戻った日には、
昔々、情けをかけた女どもがわんさと押しかけてきて、そりゃあ大変なんだ。
で、バッティングしないように、あれこれと考えるぐらいなら、
どっかの観光コロニーに行って、新しい女としけこむことにしてるのさ。」
「信じられない・・・です。」
・・・ポカッ。
「痛ッ!!」
正直に、そう言うカリウスの頭に、さらにパンチが入る。
「・・・なんでだ、失礼な。」
「だってこの間も、絶対おまえに彼女を見つけてやるーって手当たりしだいに声をかけ始めて、
結局ひとりも引っかからなかったじゃないですかーーーっ!!!」
「うっ・・・(ゲホゲホゲホ)。」
「はっはっはっ、ケリィ。嘘はいかんぞ。嘘は。」
任務終了の報告を済ませて、ようやくアナベル・ガトー大尉もこの部屋にやってきた。
どうやら、話の最後の方を聞いたらしい。
「あの・・・ガトー大尉にも苦手なものが、あるのですか?」
ケリィに対するのに比べたら、ずいぶんと畏まった口調でカリウスが訊く。
・・・そうだよ、ガトー大尉だって苦手なものくらい、きっと。
「・・・ふっ、これといって、私は・・・」
ガタ、タッ!!!
その時、派手な音を立てて、ケリィが椅子から立ちあがった。
何故だか、胸元に手を突っ込んでガサガサと・・・
「カリウス。ガトーの苦手なものはこれだ!」
じゃーん、と口で言いながら、ケリィは1枚の紙を取り出した。・・・写真だ。
『!!!!!!!!!』
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「ど・・・どうしたのだ、これは?」
わかる人にはわかる程度に、ガトーの声が震えている。
・・・それは世にも珍しい、アナベル・ガトーの女装写真だった!!!
まだ開戦前の、クリスマス・イブ。
かといって、休暇を取って家に帰れるような状態ではなく、
当時の大隊のメンバーが集まって騒いだパーティ。
酔っ払った誰かが、
「やっぱりパーティーに女がいないとつまらーん!!!」
と、言い出し、
もっと酔っ払った誰かが、
「誰か女になれー!!!」
と、騒ぎはじめ、
とことん酔っ払った大隊長が叫んだのだ。
「じゃんけんで負けた奴が、給仕係だ。・・・ただしサンタのかっこう(ミニ)でな!!!」
・・・そして、大隊長は、猫耳が好きだった。
・・・そしてそして、大隊一じゃんけんが弱かったのは、アナベル・ガトーその人だった。
「・・・秘蔵写真だ。おまえに見せると取られると思ってな、ずーっと隠してたのさ。」
「返せ!」
「俺のなんだから、『返せ』はないだろう。」
ガトー大尉の眉がピクリとするが、ケリィは意に介さない。
「では、よこせ!!」
「おまえが、かっこつけるから、さー。」
ビリビリビリ。
「・・・あーあ。」
ガトーはケリィから強引に写真を奪い取ると、すぐさま破り捨てた。
「私の許可なく撮られたのだ、当然だろう。
・・・よし。302哨戒中隊は、10分後にブリーフィング・ルームへ集合。いいな!」
「・・・了解(しぶしぶ)。」
そうでも言わなければ、ガトー大尉は恥ずかしさにいたたまれなかったに違いない。
・・・で、ガトーが先に部屋を出ていってからの会話。
「カリウス君、あの写真は誰が撮ったと思う?」
「・・・えっと、レズナー大尉ですよね。」
「じゃ、誰がネガを持ってる?」
「あっ!!!」
「そういうこと(ニヤニヤリ)。」
・・・2ヶ月に1度くらいは、ケリィがその写真を取り出して、
ガトーをいじめたとかいじめないとか。
人間、誰しも弱点のひとつやふたつはあるものだが、
アナベル・ガトーのそれは、どうやら『じゃんけん』と『写真』らしい。
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