小小説（Valentine's Day）

+ Valentine's Day +

その日、戦艦ドロワは、補給のためソロモン要塞に係留中だった。

「あーあ、せっかくのバレンタインなのに、愛しのマリリンちゃんは、遠い空の下か。」

「ばーか、何を気どってんだよ。・・・しょうがないだろ、まったく。」

「・・・カードくらい、届くかなぁ。」

そう、今日は２月14日。

世の恋人たちが、プレゼントやカードを贈ったりして、
互いの愛を確かめ合う日。

食堂で休憩中の302哨戒中隊員たちは、
ちょっぴり戦場のわびしさを感じた。

「・・・我が恋人よ、君はいま何処に。
・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうだ！義理チョコでも、贈ろうかなぁ。」

と、隊員の一人が呟く。

「義理チョコぉ？・・・なんだ、それ？」

カリウス伍長が、怪訝な顔をする。

「えー、義理チョコ知らないのか？」

「・・・知らない。」

「知らないよなー。」

「俺も、聞いたことない。」

と、カリウス以外の隊員たちも、それに続いて知らないと言う。

「・・・おかしいなぁ。
普段、世話になってる同僚とか上司とかに、チョコを贈ることなんだけど。
・・・義理でな。だから、義理チョコ。」

一同、「ふーん。」

どうやら、日系人らしい、その隊員だけが知る習慣。

・・・だが、ここは戦場。
時には、バカのひとつもやりたくなるものだ。

「・・・なぁ。俺たちなら、ガトー大尉に贈るってことか？」

「そういうことになるな。」

一同、「・・・・・・・・・（おもしろいかも）。」

全員総出で、物資部の売店にくり出す。

「・・・カードもつけるのか？」

「たいがいは、
『これからも、よろしくお願いします。』とか、
『いつまでも、すてきな人でいてください。』とか、
『仕事ぶりも人間的にも、私の目標です。』とか、
・・・書くんだけど。」

「ガトー大尉にか・・・何て書いたらいいか、わかんないよーーー！」

一同、「・・・確かに。」

それでも、大して種類のない中から、
銘々チョコレートとカードを選んで、言葉を綴る。

「俺は・・・『大尉のようになりたいです！』かな。」

「どうせなら、『愛してます！』って書く方が、困った顔が見れるかも。」

「・・・・・・・・・いいけど、後がコワイよな。」

「うーん。」

そろそろ士官だけのミーティングも終わり、帰ってくる時間だと食堂へ戻る。

・・・が！！！
途中で、まずい男に会ってしまった。

「おまえら、何だか楽しそうだな？」

「・・・レズナー大尉？！・・・あの、これは・・・」

別にいけないことをしているわけではないのだが、
過去の経験から、一番悪乗りしそうなこの男に言い出すのを、みんながためらう。

「・・・じゃーん、それはなーんだ？？？」

「あーっ？！」

カリウスの小さな叫び。

さりげなく後手に隠していたチョコレートを、
素早い動作で、ケリィに奪われたのだ。

「チョコにカードだとぉ？」

・・・とうとう、義理チョコについて説明するハメになった。

・・・・・・・・・むっすり。

「どうして、こんなおもしろい事に、俺を呼ばないんだ！」

「えっと・・・それは・・・ちょうど、大尉殿が席を外されていたからでありまして・・・別に他意は・・・」

「・・・・・・・・・問答無用！このチョコは、没収だ！！！」

一同、「えーーー！！！」

「・・・なんだ、文句があるのか？」

ケリィが、すごむ。

一同、「・・・ありません（泣）。」

「・・・・・・・・・よし（ニヤリ）。」

「ガトー、お前にプレゼントがあるんだが。」

「・・・ん？・・・プレゼント？」

ミーティングを終えたガトーの姿を見つけたケリィが、
腕の中にカラフルな何かを抱えて近寄ってくる。

「ほーら、よ。」

「わわ・・・。」

10個のチョコレートをポンと渡されたガトーが、
落とさないように、慌ててそれを受け取った。

「一体、これは何のつもりだ？」

・・・そこで、ケリィが『義理チョコ』について、講釈をたれる。

「で、私に贈るというわけか？」

「まあな、俺の愛すべき上官だし（ニヤリ）。」

「・・・だが、何故10個もあるのだ。」

「あ・・・それは、だな、
それだけたくさん、おまえに面倒かけたなーって、気持ちの表れだ。」

「・・・ふむ。では、ありがたく受け取るとするか。
しかし、こんなには食べれん。カリウスたちに分けてやろう。」

ガトーは、甘いものが、ちょっと苦手である。

「いやいや、そんな必要はないさ。
あいつらは、俺よりもっとおまえに世話になってるのに、
チョコひとつ、よこさないんだぜ。」

柱の影の一同、「・・・・・・・・・（号泣）。」

今日は２月14日。

世の恋人たちが、チョコレートやプレゼントやカードを贈ったりして、
互いの愛を確かめ合う日。

あなたも、誰かに愛し愛されてますか？

・・・おわり（笑）。