+ 蕾 +










戦艦ドロワの通路を、カリウス伍長が進んでいた。

その手には、何かを抱えている。



ソロモン要塞での補給を終えたドロワの発進時間まで、あと6時間あまり。

発進準備に当たる兵たちはとっくに戻ってきていたが、
それ以外の者には、いささか余裕があった。

久々の自由時間を終えて、いつもの日常へと向かう兵士たち。



「・・・・・・・・・へっへー。」

カリウスはとにかく自室へ急いでいた。

大事そうにソレを抱えたまま。



こんな物をレズナー大尉にでも見つかったら、また何を言われるか・・・



しかし、そういうこそこそした態度は背中にも出るものである。



「カリウス、戻ってきたのか?」

ビクッ!!!



そして、ケリィはそういうことに限って見逃さない男であった。

背後から突然、声をかけられて、カリウスはつい驚いてしまう。



「カリウスくーん。」

あっという間に、宙を飛んで、カリウスのところまでやってくる。



「何か、隠してないかなー。」

わざとらしいカワイイ声がよけいに怖い。

カリウスはすっかりその場で固まってしまった。



「ん・・・なんだ、それ?」

長身を生かして、背後から楽々のぞきこんだケリィは、
カリウスの手に植木鉢が大事そうに抱えられているのを見た。



緑の葉っぱに黄色いつぼみ。



ケリィの表現力では、その程度しか例えられない。

・・・そもそも花に興味もない。



「どうしたんだ。それ?」

「えっと、その、部屋が殺風景なので、何か置いた方がいいか・・・と、思いまして。」

「ふーん、それで花か。
・・・まあ、おまえには似合ってるかもな。」



(・・・・・・・・・良かった!突っ込まれなくて!!!)



ケリィが、その鉢に興味を無くしたようなので、カリウスは胸を撫でおろした。

そう、ちょっとHな写真集とかそういうものを隠してたんなら、
からかいがいがあるのに、花ではつまらんという訳だ。



そこへ・・・



「ん?戻ってきたか。」

ケリィとカリウスの姿を見とがめて、アナベル・ガトーが近づいてくる。

ガトーは部隊を預かる責任者として、
せっかくの上陸時間をほとんどドロワで過ごしたのだった。



(あわわ・・・大尉だ!!!)

なぜか慌てるカリウス。



「おや、それは『アナベル』では?」

「アナベル〜〜〜???」

「は・・・はい、そうです。大尉どの。」



鉢に植えられていたのは、ベゴニア科のアナベル。

綴りこそ違えど、ガトーと同じ音の名を持つ花である。



「どうしたのだ?」

「その・・・花屋の前を通りかかったら、名前が目に入って、
なんとなく買ってしまったんです!」

概ね真実。だが、『なんとなく』はウソだ。



この鉢植えを見つけた時、
つぼみが花開くように、
どうか、憧れの、ガトー大尉のようになりたいと・・・



そう思ったからこそ、買ってしまったのだ。





「ふーん。それでアナベルか。

・・・まあ、おまえには似合ってるかもな。


ケリィは、思いっきり意味深そうに笑うと、わざと大きな声で言う。



「はい・・・では・・・失礼します!」

とにかく、カリウスはその場を逃げ出そうとした。そこへ・・・



「枯らすんじゃないぞ!」

と、一言。



そんなガトーの声も、笑っていた。











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