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『実は、妻とは別居中でして・・・』

シナプス艦長との話を終えて、戦艦アルビオン内の

自室のベッドに腰掛けたサウス・バニングの頭の中を、

さっき告げたばかりの言葉がこだましていた。



『実は、妻とは別居中でして・・・』

妻のシルビア・バニングと別れて暮らすようになって、3年が経つ。



「・・・ふーっ。」

知らず知らずにため息をこぼして、

フライトジャケットの内側のポケットから、一枚の写真を取り出した。



茶色の髪をした女性。屈託のない笑顔。

心臓の真上にあるポケットに、こっそり入れている大切な写真。

「・・・シルビア。」



軍人であるバニングは世界中を転属した。

いくど住む家を変わったことだろう。

彼女は、いつも笑って荷物を片し、歌って掃除をしながら、

そんな環境にも耐えてきた。



幸か不幸か、二人の間には子供が持てず、

でもそれ故、身軽に新しい土地についてこれたのかもしれない。



それなのに・・・





結婚は早かった。

というか、プロポーズした日に結婚したのだ。

(・・・俺も若かったよなぁ。)



まだMSが影も形も無かった頃、

戦闘機乗りだったバニングは、明日から宇宙に上がるという時になって、

急に恋人のシルビアと別れが怖くなった。


・・・俺が地上に戻るまで、待っていてくれるだろうか。

かわいいシルビア。よく動く瞳。明るい笑い声。



「くそっ!」

意を決して、宿舎を飛び出すと、そのまま車を走らせた。



「結婚してくれ!今すぐ!!」

驚きに見開かれた目。恥ずかしそうに俯いて、でも小さな声でまぎれもなく、

「Yes」

・・・と。



カリフォルニアベースから、ハリウッドの簡易結婚所まで、

夢心地のドライブ。車を飛ばして。

ドライブスルー方式で結婚できるあれだ。



「戻ってきたら、ちゃんとウェディングドレスを着させてやるよ。」

「・・・くすくす。」



ああ、約束したんだったなぁ。いまだに果たしてやれてない。





二人が気まずくなったのは、一年戦争が終わってからだ。



オーストラリア・トリントン基地へ配属された時、

いつも通り、シルビアはついてきた。



だがほどなく、会話が減り、一緒にいる時間が辛くなり、

シルビアを小さな家に残したまま、バニングは基地に泊まり込むようになった。





・・・俺が変わったからか。

いや、人間は誰しも変わる。変わっていく。

それを彼女に伝えきれなかった。



一年戦争の前は、軍人だというのに、仮想敵としか戦ったことがなく、

そして、自分の手で、敵を討つということは・・・



変わらずにはいられなかった。



そこに、戦う意味を見出したとしても、

やはり変わらずにはいられなかった。






帰れたら・・・・・・・・・、

いや、必ず帰って、話をしよう。



寝る間も惜しんで会いに行った、あの頃のように。

夜明けまで語り合った、あの頃のように。





サウス・バニング大尉は、写真をそっと元に戻すと、堅いベッドに横になった。











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