+ 御守り +










『トト、トト、トト・・・』

「・・・?」



アナベル・ガトー大尉は、誰かに後をつけられているような気がしていた。



『トト、トト、トト、トト・・・』

「・・・やっぱり。」



戦艦ドロワの長い通路の端まで来たとき、影に身を隠して、足音の正体を確認する。



「誰だ!」

「わっ!!!」

不意を襲うように姿を現した時、ノーマルスーツ姿の少年が驚いた顔をした。



「・・・カリウスか、一体どうした?」

「あの・・・その・・・すみません。」

ガトーの元に新兵として配属されたばかりの、カリウス伍長ではないか!



「何か、用か?」

「え・・・その・・・」

「軍人なら、はっきりせんか!!」

ガトーを前にして、モジモジと赤くなっているカリウスは、まともに喋ることができない。

・・・それに、こっそりと狙っていたのだ。



「伍長、そんなことでは、一人前の兵にはなれんぞ!」

「で、では、言わせて頂きます!」

ようやく顔をガトーと見合わせて、意を決したように、カリウスは告げた。



「大尉殿の髪の毛を一本下さい!!」

「・・・はッ?」

さすがの、ガトーも呆気に取られる。



「こっそり後をつけてたのは、落ちてこないかなぁと思って待ってたんです。」

「・・・そんなもの、どうするのだ?」

いぶかしみながら、ガトーが訊く。



「レズナー大尉から、聞きました。御守りになるから持っておくようにって。
それがあれば、撃墜されないって。」

(・・・ケリィの奴め。)



「お願いします!」

目には必死の表情が浮かんでいる。

わずかに顔を上気させ、一途にガトーを見つめる、学徒上がりの新兵。

『からかわれたのだ。』

とも言えない。



それにガトーもそういう迷信は知っていた。

ただし御守りになるのは・・・



女性の陰毛、だ。

とても、ここでは手に入りそうにない。



「・・・つッ。」

ガトーは諦めたように、右手で自分の髪を引っ張った。

たしかに、御守りになりそうな、きれいな銀の糸だ。

これで、励みになるというのなら、それも良かろう。



「ほら。」

「ありがとうございます。一生大切にします。」

たった一本の髪の毛を大事そうに受け取る、カリウス伍長。



・・・そんなことはいいから、生き抜け。

ガトーは、心の中でだけ、そっと呟いた。










「痛っ!!」

ケリィ・レズナー大尉は、不意に頭に痛みを感じた。

この感触は、・・・そう、誰かが髪の毛を引っ張ったのだ。



「おいっ!・・・・・・・・・あっ?」

振り返ってみれば、ガトーの背中が見える。



「・・・はははっ。やられたか、ガトー。」

ケリィの悪戯に対する、ガトーの無言のお返しだった。











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