+ 休暇1 +










『やった!!!!!!!!!』

サイド3の、とある宇宙港で、思いっきり伸びをする一人の少年。

防水の利いたカーキ色のナップサックひとつを肩から下げて、
シャキシャキとした足取りで入国ゲートへ進む。



それは、カリウス伍長にとっての、はじめての長期休暇だ。



徴兵されたのではなく、自ら望んで入隊したのだけれど、
戦艦生活の味気なさは如何ともしがたく、時に無聊を感じさせる。



「よく帰ったな!」
「さあ、母さんにも、抱かしてちょうだい!!」
「お帰り!、カリウス!!!」
「元気そうじゃない!!!!」
「うわー、いっちょまえになって!!!!!」
「兄ちゃん!!!!!!」

「・・・ただいま。」

あっという間に家族に取り囲まれた。

父と母と三人の姉と歳の離れた弟。



大人な自分をこんなに大勢で出迎えるなんて、恥ずかしくもあるけれど、
・・・やっぱり、イイな。

うん。暖かい。

それが、家族。





「父さん。工場に戦争の影響はあるの。」

久しぶりに一家七人で囲む夕食。

パンに、鳥の丸焼きに豆のスープ、カラフルなパプリカのサラダに、
とっておきは、自家製のプディング!



「ん・・・まあ、そりゃあ、軍から色々と言ってくるが、こうして家族が元気に暮らしてるんだ。」

ジャンク屋を営む父親は敬虔なカソリック教徒で、
商売上手とはいかないけど、家族が食べていくには困らない程度には収入がある。

毎日の糧と家族の笑顔。

父親の幸せの範疇はその域から出ない。



「さあ、不景気な話は、そこまでにして。もっと食べなきゃ。」

カリウスの皿が空いたとたんに、香ばしい肉を取り分ける、母親。



「母さん、そんなに食べれないって。」

父親よりもちょっと大柄な母親は、大きな声で体を揺らして笑い、
父親以上に子供たちを叱り、父親以上に子供たちを抱きしめてきた。



「・・・・・・・・・でも、母さんの料理がやっぱり一番おいしいよ。」

豪華じゃなくても、特別じゃなくても。



「あら、私だって手伝ったのよ。」

長姉のマリーア。3歳違いの。しっかり者。



「あれ、ジョックは今日、一緒じゃないの?」

一年前に結婚したばかりの、姉の夫の名だ。



「・・・まだ手紙が届いてないのね。ジョックは2ヶ月前に、入隊したの。」

「!!!ほんと、それ?」

「ええ。」

カリウスは俄かには信じられなかった。

ペット屋を営む、優しそうな義兄の笑顔しか思い浮かばない。



・・・そんなジョックが、軍に?



「大丈夫なのかしら?
・・・最近、テレビでも入隊案内ばかり放送してるのよ。」

不安そうなマリーア。



「ほら、姉さん!せっかくの夜なんだから。
・・・さあ、プディングを切るわよ。」

次姉のルル。2歳違いの。母親に似て、元気いっぱい。



「このプディングだけは、母さんのが最高よ。
どうしても真似できない。」

「あたり前よ。年季が違うんだから。」



7人が囲むにしては、小さめの食卓。お皿が溢れんばかりに、並べられて。



「もっと、ちょうだい。」

「これ!」

3人目の、つまりカリウスのすぐ上の姉、リディア。1歳違いで、食いしん坊。



「・・・だって、おいしいんだもーん。ね、カリウス。」

「うん。」

クックックッ・・・笑いながら、食べるプディング。

どうしてこんなにおいしいんだろう。



最高の調味料は、やっぱり・・・・・・・・・



「兄ちゃん!お土産ないの???」

どうも、さっきから、ドアの向こうのリビングのソファーばかり見てると思ったら、

そこに置かれている、カリウスの荷物が気になるらしい。



10歳違いの弟のファド。

カリウスの小さい頃にそっくりだ。クルクル巻き毛に大きな瞳。

一家のアイドル。



「なんか、あったかなー。・・・じゃあ、持っておいで。」

「うん!!!」

元気いっぱいの返事で、口の回りを汚したまま、椅子から飛び降り、駆け出して、

まだその小さな体には不似合いな大きさの荷物を、

引きずるように運んでくる。



「はい。これが、父さん、で、こっちが母さんの。」

「ありがとう。」

「ありがとう。」

ありがとうの言葉は絶対に欠かさない両親。



「これが、マリーア姉さんにルル姉さんにリディアのお土産。」

そこで、カリウスは手を止める。



「・・・・・・・・・兄ちゃん、僕のは?」

「ごめん、忘れちゃった。」

「えー!!!」

本気で悲しそうなファドの声。

もっと焦らそうかと思ってたのに、
その声音に、カリウスは、すぐ降参してしまう。



「ははは、・・・ほら。」

「わーーーーーーーーーあ!ありがとう!!!」

ガサガサと開かれる包み。



「あっ???すごーい。ザクだ。ザクだよね。これ!!!
こんなの誰も持ってないよ!!!」

弟が一番喜びそうなものを・・・と考えたあげくに、
ちょっと場末な店で出回ってるザクのフィギュアを購入した。

軍が禁止しているのに、いつの間にか出回っているものだ。
もちろん、細部はいいかげんな作りだけど。



「どっかーん!!!ダダダ。」

さっそく、手に握ったザクを宙に飛ばして、ファドはとっても誇らしげ。





・・・そんな姿を見ながら、カリウスは少しだけ、後悔らしきものを感じている自分に気づく。



もっと戦争に関係のないものを選ぶべきだったのでは、と。



『ポンッ!』

「父さん・・・」

そんなカリウスの後ろに、いつの間にか父親が立ち、肩に両手を置いた。



(父さんには、何もかもお見通しだね。)



・・・その夜、カリウスの家ではいつまでも部屋の明りと話し声が絶えなかった。



休暇は、まだ10日、ある。











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