+ 極意 +










「レズナー大尉ー。教えてくださいよー。
どうやったら、死なずにすむんですか?・・・・・・・・・ヒック。」

なんだか泣きそうな声。真っ赤な顔。潤んだ瞳。



「そんなに聞きたいか?」

一方、こちらは、いつもに増して陽気な声。大げさなボディアクション。乱れた金髪。
それに軍服の胸元が、少しはだけている。



「もちろん、です!」

グラスにかなり薄めのコークハイ。・・・ほとんどアルコール抜きの。



「じゃあ、給料一ヶ月分な。」

大ジョッキに黒ビール。・・・しかも4杯目。



「・・・・・・・・・大尉どのー!!!(泣)。」



今日は楽しい週末。

誰が言い出したのか、302哨戒中隊員が総出でバーに繰り出した。

もっともバーといっても、要塞ソロモンにある軍御用達の小さな酒場で、
12名の隊員でぎゅーぎゅー詰めになっている。



「・・・ケリィ。そんな意地悪をするなよ。教えてやれ。」

と、二つ向こうの椅子から声がする。

いつも同じ低く渋い声に、きっちり整えられた銀髪、伸びた背筋。

でも、よくみれば、目の縁が少し赤くなっているのがわかる。

言わずと知れた、中隊長のアナベル・ガトー大尉だ。



・・・ちなみに、飲んでるのはジンライム。

カウンターの上には、すでに1/3ほど空いた透明な瓶が一本。絞ったライムの皮が2つ。



「俺の極意はそんなに安くはないぞ。
・・・まあ、しょうがない。
カリウス君、耳の穴をかっぽじってよーく聞くように!」

「はい!!!」

そう言うとケリィは右手をカリウスの肩に回し、自分の方に引き寄せて、
唇を耳元に近づけた。



「『俺は、絶対死なないぞ!』って思うことだ。」

「・・・・・・大尉どのー!!(泣)。」

どうやら、二人ともかなり酒が回っているらしい。

ケリィは、益々楽しそうに笑い出し、
カリウスは、言葉に泣き声がかなり混ざっている。



「カリウス。酔っ払いに、そういうことを訊いても無駄だぞ。・・・こっちに来い。」

二人のやりとりを、目を細めて見ていたガト−が、手招きをする。



「ガトー大尉ー!レズナー大尉が・・・ヒック。ヒック。ヒック・・・。」

しゃくりあげながら、カリウスはガトーの方へ近づいた。

こうなるといつもの・・・・・・・・・



「よし、私が教えてやろう。」

「・・・大尉。」

「『生きのびる』ことだな。」

「うわーーーーーーーーーん!!!(号泣)」

ガトーの返答を聞くや否や、カリウスは回りに構うことなく、声をあげて泣き出した。





「今日は、ガトーが泣かしたか。あーあ。・・・はっはっは。」

「何を!カリウスが泣き上戸なのは、いつものことだ。」

泣きながら他の隊員たちの間を歩き回っているカリウスの姿を眺めながら、
会話を交わす、二人。



「我がドロワが誇るエースパイロットの言葉じゃないだろ。
純情な青少年の夢を踏みにじって。・・・ひっひっひ。」

ケリィの言葉もだんだん怪しくなってくる。ジョッキはとうとう6杯目。

こうなるといつもの・・・・・・・・・



「君も、エースと呼ばれてるのではなかったかね。・・・ケリィー・レズナー大尉。」

「・・・(ニヤリ)。だったかな。」

「純粋な青少年たる私に、その『極意』とやらを教えてくれ。」

「ふは?・・・ふふはははははーーー!!!」

ケリィにも、いつもの発作が来たようだ。

こうなると眠気が襲ってくるまで、笑い続けるに違いない。





「・・・まったく。酔っ払いに、何を言っても訊いても、無駄だな。」

仲間の一人一人に絡みつつ、笑っているケリィを見ながら、ガトーはそう呟いた。



だが、そのやりとりを聞いていた、302哨戒中隊の残りのメンバー9名全員が、
『純粋な青少年たる私』などと言うガトーに、
「大尉、あなたも酔っ払ってます!」と、心の中でツッコミを入れたに違いない。





・・・・・・・・・酔っ払いに、何を言っても訊いても、無駄なことである。いや、まったく。











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